168時間発酵という設計判断 ― Graham Eunson が Tomatin で『同じ味であり続けること』に費やした 1 週間
— ハイランド最大級だった蒸留所 Tomatin は、業界最長 168 時間発酵・12 基並列スチル・full lauter mashing で『個性を出さない個性』を作り続けている。General Manager Graham Eunson がその制御工学を 14 年運用してきた判断を読む。
蒸留化学・樽科学・ブレンド数理・発酵工学を、曖昧にせず説明する。
— ハイランド最大級だった蒸留所 Tomatin は、業界最長 168 時間発酵・12 基並列スチル・full lauter mashing で『個性を出さない個性』を作り続けている。General Manager Graham Eunson がその制御工学を 14 年運用してきた判断を読む。
— Laphroaig のヨウ素香は比喩ではない。麦芽には bromophenol が実在する。Islay の maritime peat と Orkney の heather peat、化合物の起源は植生で決まる。John Campbell が 27 年掛けて制御したのは混合比だけだった。
— 「名水が味を決める」はウィスキー最大のマーケティング神話だ。だが水が最終風味に効くのは、ロマンチックな仕込み水ではなく、銅接触と硫黄を左右する冷却水の温度のほうだ。River Teith を仕込み・冷却・水力発電に三重利用する Deanston を蘇らせた Ian MacMillan の判断を、水の三役という工学から読む。
— ウィスキーで一番フルーティな決断は、何も足さずにただ待つことだ。発酵時間を48時間から140時間へ延ばすと、酵母の後に乳酸菌が働き果実のエステルが増える。Iain McAlister が Glen Scotia で平均約140時間の長発酵を選ぶ判断を、residence time vs throughput のトレードオフから読む。
— 床に広げた麦を一日数回返す労働を、空気と回転スクリューに置き換えたのはフランスの技師 Charles Saladin だった。発芽の制御工学と、Tamdhu が 2010 年まで自家製麦を続けた判断のトレードオフを読む。
— 台湾・宜蘭の Kavalan は年10%超の天使の分け前と引き換えに熟成を加速し、約4年でスコットランドの長熟に並んだ。設計者 Ian Chang(張郁嵐)が引き受けた温度×樽×蒸発のレート方程式を読む。
— なぜ一つの蒸留所に形の違うポットスチルを三基も置くのか。鹿児島・吹上浜の嘉之助蒸溜所で小正芳嗣が下した「スチル幾何で風味レンジを内製する」工学判断を、還流と銅接触の化学から両面で読む。
— ポットスチルは銅板を叩いて作るのが常識だった。富山の三郎丸蒸溜所はそれを鋳物に置き換えた。稲垣貴彦が叩き銅を捨て青銅の鋳造を選んだ工学判断を、銅触媒と硫黄除去の化学から両面で読む。
— ステンレス発酵槽は殺菌できる。木桶は殺菌しきれない ― 木目に乳酸菌が棲む。肥土伊知郎が秩父で世界初のミズナラ発酵槽と4日発酵を選んだ判断を、乳酸エチルの生成化学とトレードオフから読む。
— ウィスキーの樽は使うたび痩せる減衰資源。ファーストフィルから再チャーまでの抽出減衰と樽在庫の最適化を、サントリー5代目チーフブレンダー福與伸二の判断から読む。
— GlenAllachie 12年の中身は Pernod Ricard の旧在庫を Billy Walker が Oloroso 樽へ詰め替えたもの。4蒸留所を売った翌年、72歳で5つ目を独立取得した化学博士の判断を読む。
— 富士御殿場には稀な3種のグレーンスティルが並ぶ。四社合弁が残した蒸留器パズルを、田中城太が Master Blender として一人で統括する。Single Grain Fuji の中身を読む。
— Nikka Coffey Grain の中身は1830年 Coffey 特許の直系。父・政孝が運んだ塔を30年回し grain を単独ボトリングに格上げした2代目・竹鶴威の工学判断を読む。
— Macallan の oily な新酒は1965年生まれの大麦 Golden Promise に依存していた。1994年に25%へ減らした判断を、Bob Dalgarno と収量・風味のトレードオフから読む。
— Glenfarclas は現在スコッチで唯一、全6基を直火加熱する。釜底の Maillard 反応とシェリー樽が熟成中に増幅し合う仕組みと、Grant 家が steam coil 化を3度拒んだ理由を読む。
— Islay のスモーキー香は phenol 4化合物の混合比。Bowmore はその比を1966〜2016年、Eddie MacAffer 一人が床麦芽で決め続けた。50年の仕事と西海岸 peat の話。
— 完全3回蒸留を運用するスコッチは現在3つだけ。Auchentoshan の200年と Springbank Hazelburn の復活を、70%と81%の差と cut points の数理から読む。
— Dufftown の Mortlach は6基の蒸留器とワームタブ、『2.81回蒸留』を100年ほぼそのまま運用する。鉄道技師 George Cowie の工程図を継いだ非効率を化学から読む。