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竹鶴ピュアモルト レビュー 43%

テイスティング
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結論から書きます。 2020年版の竹鶴ピュアモルトは、余市と宮城峡の「中点」ではありません。余市を基音に置き、宮城峡を上音として重ねた一本です。旧版(2015–2020年3月)の記憶がある人ほど「余市が前に出過ぎ」と感じる可能性がありますが、中点を狙わないことこそが佐久間正の設計判断でした。二拠点ブレンドの構造を舌で確かめたい人には勧められます。均整の取れた優等生を探している人には向きません。

チャコール地に、「竹鶴ピュアモルト ― 二つの蒸留所が一本になる工学」というタイトルと、2020(17年/21年/25年終売の年)、2(余市+宮城峡)、43%(ABV)の3つの指標をアンバー色で並べた記事ヒーロー画像。「政孝の『二つで一つ』哲学が43%という度数で握手する」というサブコピーが添えられている。

竹鶴ピュアモルト 2020年リニューアル版のスペック表。度数は 43% ABV で、余市/宮城峡シングルモルトの 45% より下、標準的な 40% より上。構成は余市モルトと宮城峡モルトで、ピュアモルトはスコッチのブレンデッドモルトと同義でありグレーンは入らない。2020年の変更点は余市モルトの使用比率を引き上げ、余市のシェリー樽原酒とピート原酒を軸に据え直したこと。容量は 700ml、発売時の参考小売価格は 7,000円(アサヒビール 2020年1月16日リリース)。流通量は海外向けを含めて年 30,000 ケース程度と公表されており、希少品ではないが常時棚にある量でもない。飲み方はストレート・常温が第一で、ロックは温度で香りの層が閉じる。実勢価格は流通環境と時期で動き、公表されている固定値は発売時の参考小売価格のみ。

2020年に何が変わったのか

いま棚にある竹鶴ピュアモルトは、2020年9月発売のリニューアル版です。それ以前(2015年〜2020年3月)にも同じ名前の別のレシピがありました。名前は同じで、中身が違います。

2020年リニューアルの前後比較図。旧レシピ(2015年〜2020年3月)は、竹鶴17年/21年/25年とNASのピュアモルトが並び、味の重心は宮城峡寄りに聞こえていた。ブレンドの前提は「17年の余市と17年の宮城峡で17年の和音を作る」で済んでいた。2020年3月31日に年数表記の3本を同時に終売。新レシピ(2020年9月〜)を決めたのは佐久間正(2012〜2020 チーフブレンダー)で、彼が定めた最後の主力ブレンドの一つ。味の重心をはっきり余市側へ椅子を引き、余市のシェリー樽原酒と余市のピート原酒を軸にした。若い余市モルトは石炭直火由来の油と香ばしさが「若さ」を隠すため、密度で立たせる工学的判断だった。2021年、尾崎裕美がチーフブレンダーを引き継いだ。

年数表記が消えた理由は身も蓋もありません。17年前・21年前・25年前に仕込んだ原酒の量が、需要に追いつかなくなったからです。2010年代半ばのジャパニーズウイスキーの世界的ブームで、17年物を毎年一定本数出荷し続ける在庫が日本のどこにも残らなくなった。同時期に他社も同じことをしています。

ここでブレンダーの仕事が変わります。年数を書ける時代なら「17年の余市と17年の宮城峡で17年の和音を作る」で済みました。年数が外れた瞬間に、ブレンダーは原酒の年齢構成そのものを毎バッチ設計する立場に置かれます。

アサヒビールの公式リリースは、刷新の意図を余市モルトの原酒使用比率を高め、余市のシェリー樽原酒とピート原酒を軸に据え直すと説明しました。なぜ余市に寄せたか。年数表記を外した瞬間、飲み手は「価格に見合った密度」を舌で探し始めます。 若い宮城峡モルトは洋梨の輪郭が細くなり頼りない。若い余市モルトは、石炭直火由来の油と Maillard 反応の香ばしさが若さを隠してくれる。密度で立たせるための判断として筋が通っています。

同時に、これは「創業者の名を冠する銘柄は、創業の地の味に寄せる」という物語的整合でもあります。政孝が最初に建てたのは余市で、宮城峡はその35年後。技術と物語が同じ側に椅子を引いていました。

余市と宮城峡は、片方だけで完成しないように作られている

用語を一つ置きます。ピュアモルトは日本の慣用表記で、スコッチのブレンデッドモルトと同じ意味です。複数の蒸留所のモルト原酒を混ぜ、グレーンは入らない。

余市と宮城峡の設計対比表。加熱は、余市が石炭直火で釜底に高温点ができるのに対し、宮城峡はスチーム間接加熱。スチルは、余市が背が低く還流が少ないのに対し、宮城峡は背が高く還流が多い。化学は、余市が Maillard 反応で油の重さと香ばしさを作るのに対し、宮城峡は還流が軽く華やかな成分だけを通す。竹鶴での役割は、余市が基音で舌の中央に乗る油の重さ、宮城峡が上音でその油の上を滑る軽い果実。竹鶴政孝が1918〜1920年のスコットランド滞在で持ち帰ったのは蒸留法だけでなく、「一つのモルトでは味が完結しない」というブレンド思想だった。

政孝は1918〜1920年のスコットランド滞在ノートに、蒸留の技法だけでなくブレンドの理屈を克明に書き残しています。中核は素朴で、しかし後戻りできないものでした。一つのモルトでは味が完結しない。 重いモルトには軽いモルトが必要で、燻したものには花のようなものが必要で、両者を組み合わせて初めて1本が立体になる。1934年に余市を建て、1969年に3年かけて軟水を探して宮城峡を建てた根拠がこれです。

竹鶴ピュアモルトに至る年表。1918〜1920年、竹鶴政孝がスコットランドに滞在し、蒸留の技法だけでなくブレンドの理屈を克明にノートへ残す。核は「一つのモルトでは味が完結しない」。1934年、余市蒸溜所を北海道に建設、石炭直火で油の重いモルトを作る側。1969年、3年かけて軟水を探した末の立地に宮城峡蒸溜所、スチーム間接加熱と背の高いスチルで軽く華やかなモルトを作る側。2020年1月16日、竹鶴17年/21年/25年の終売を発表し3月31日で終売、17年前・21年前・25年前に仕込んだ原酒の量が需要に追いつかなくなったため。2020年9月、佐久間正のレシピでNAS版を刷新し余市モルト比率を引き上げ。2021年、尾崎裕美がチーフブレンダーを継承。

竹鶴ピュアモルトは、その哲学がラベル1枚に凝縮された銘柄です。この一本は、政孝が二拠点で35年かけて用意した和音を、瓶の中で鳴らすためだけに存在します。

43% という度数

日本のスタンダードなブレンデッドは40%が多く、43%はそれより3ポイントだけ高い、控えめな上振れです。

度数の比較スケール。日本のスタンダードは 40% でハイボールで薄める前提の度数。竹鶴ピュアモルトは 43% で、加水なしで食中も食後も届くニッカの伝統的なフラッグシップ度数。余市/宮城峡のシングルモルトは 45%。ニッカ フロム・ザ・バレルは 51.4% で、まず刺す強度。43% のフィニッシュは 40% より 2〜3 秒長く持ち、ブレンダーが樽の前で確かめた濃度を加水で薄めきる前に舌まで届ける「最短距離」として選ばれている。

3ポイントは小さく見えますが、官能的にははっきり違います。40%だと香りが「距離のある匂い」として立ち上がるのに対し、43%は同じ香りが「グラスの縁のすぐ内側にある」ように近づく。フィニッシュも2〜3秒長い。フロム・ザ・バレルの51.4%のように「まず刺す」強度はなく、加水なしで食事の途中でも食後でも届く度数です。

グラスのなか — 煙、干し葡萄、そして遠くの洋梨

ノーズは、まず温めた蜂蜜と焼いたリンゴ。数秒置くと、裏から乾いた煙が立ち上がります。焚き火の火が消えたあと、燃え残りに近づいたときに鼻に届く、油分を含んだ煙です。同時に干し葡萄をオーブンで軽く温めた甘さ(余市のシェリー樽原酒の署名)が座り、いちばん遠くに宮城峡の白桃と洋梨が薄い一枚として敷いてあります。

口に含むと、最初に舌の中央に油の重さが乗ります。少し遅れて、その油の上を軽い果実が滑る。この滑り方は宮城峡の還流が生んだ軽さで、余市の油だけでは出せない動きです。フィニッシュはミディアム。潮を含んだ煙が薄く残り、干し葡萄の甘さが5秒ほど遅れて戻ります。

竹鶴ピュアモルトのフレーバー構造図。中央に「余市を基音に、宮城峡を上音に」。完全な中点は薄い妥協の味になり、左右を交互に飲むのと変わらない。43% が和音の音量ツマミ。左に、ノーズは温めた蜂蜜と焼いたリンゴで数秒置くと裏から乾いた煙が立ち、基音である舌の中央には油の重さが乗って余市の Maillard 反応が作る香ばしい炭化物のヒントが粘膜に密着する。右に、上音として油の上を滑る果実は宮城峡の還流が生んだ軽さで余市の油だけでは出せない動き、フィニッシュはミディアムで潮を含んだ煙が薄く残り干し葡萄の甘さが遅れて戻る。

中点を探さないでください。 ブレンダーが2本のモルトから1本の和音を作るとは、均等に鳴らすことではなく、一方に基音を置いて、もう一方を上音として重ねることです。完全な中点は薄い妥協の味になり、左右を交互に飲むのと変わりません。

余市単独にはフィニッシュの軽さが「無く」、宮城峡単独には煙が「無い」。竹鶴は、両方の「無いもの」が埋まった一本です。

次に開けるとき、確かめてほしい3つ

基音と上音の階層。 舌の中央に乗る油の重さ(余市)を基音として聴き、その上を滑る軽い果実(宮城峡)を上音として拾う。この階層が聞こえれば、佐久間の2020年判断を舌で再現しています。

煙の質。 アイラ的な正露丸の煙ではなく、焚き火が消えたあとの油分を含んだ煙です。余市のヘビーピートモルトが石炭直火の釜で加熱されたときにしか出ない質で、ジャパニーズではここでしか出会えません。

時間差の展開。 ノーズから口、口からフィニッシュまで、余市の油 → 宮城峡のフルーツ → 余市の煙という往復が起きます。単独のシングルモルトでは起きない、二拠点ブレンドだけの時間軸です。一本調子に感じたら、グラスの中で数分待ってからもう一度嗅いでみてください。

飲み方は、まずストレート・常温。43%は加水なしで一番設計が見える度数です。数滴の加水で余市のシェリー樽の甘さが開きますが、最初の一杯は乾いた状態で。ロックは温度で香りの層が閉じるので向きません。食事なら香ばしい炭火焼きが合います。余市の油と Maillard 反応が、動物性脂肪の焼き目と物理的に握手します。

竹鶴政孝は「創業者の物語」の看板になりがちですが、この銘柄を飲むと、彼が日本のウイスキーに持ち込んだのは**「二つの蒸留所を持ってブレンドで組む」というインフラそのもの**だったと分かります。


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Amazon.co.jp へのリンクです。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。

主な参考資料

関連: 余市シングルモルト レビュー(基音側を単独で聴く)/ 宮城峡シングルモルト レビュー(上音側)/ 余市と宮城峡の違い(2本を並べる決定版)/ 竹鶴政孝のスコットランドノート(「二つを一つに」の出典)/ フロム・ザ・バレルと竹鶴威(同じ思想のブレンデッド版)