竹鶴ピュアモルト レビュー 43%
結論から書きます。 2020年版の竹鶴ピュアモルトは、余市と宮城峡の「中点」ではありません。余市を基音に置き、宮城峡を上音として重ねた一本です。旧版(2015–2020年3月)の記憶がある人ほど「余市が前に出過ぎ」と感じる可能性がありますが、中点を狙わないことこそが佐久間正の設計判断でした。二拠点ブレンドの構造を舌で確かめたい人には勧められます。均整の取れた優等生を探している人には向きません。


2020年に何が変わったのか
いま棚にある竹鶴ピュアモルトは、2020年9月発売のリニューアル版です。それ以前(2015年〜2020年3月)にも同じ名前の別のレシピがありました。名前は同じで、中身が違います。

年数表記が消えた理由は身も蓋もありません。17年前・21年前・25年前に仕込んだ原酒の量が、需要に追いつかなくなったからです。2010年代半ばのジャパニーズウイスキーの世界的ブームで、17年物を毎年一定本数出荷し続ける在庫が日本のどこにも残らなくなった。同時期に他社も同じことをしています。
ここでブレンダーの仕事が変わります。年数を書ける時代なら「17年の余市と17年の宮城峡で17年の和音を作る」で済みました。年数が外れた瞬間に、ブレンダーは原酒の年齢構成そのものを毎バッチ設計する立場に置かれます。
アサヒビールの公式リリースは、刷新の意図を余市モルトの原酒使用比率を高め、余市のシェリー樽原酒とピート原酒を軸に据え直すと説明しました。なぜ余市に寄せたか。年数表記を外した瞬間、飲み手は「価格に見合った密度」を舌で探し始めます。 若い宮城峡モルトは洋梨の輪郭が細くなり頼りない。若い余市モルトは、石炭直火由来の油と Maillard 反応の香ばしさが若さを隠してくれる。密度で立たせるための判断として筋が通っています。
同時に、これは「創業者の名を冠する銘柄は、創業の地の味に寄せる」という物語的整合でもあります。政孝が最初に建てたのは余市で、宮城峡はその35年後。技術と物語が同じ側に椅子を引いていました。
余市と宮城峡は、片方だけで完成しないように作られている
用語を一つ置きます。ピュアモルトは日本の慣用表記で、スコッチのブレンデッドモルトと同じ意味です。複数の蒸留所のモルト原酒を混ぜ、グレーンは入らない。

政孝は1918〜1920年のスコットランド滞在ノートに、蒸留の技法だけでなくブレンドの理屈を克明に書き残しています。中核は素朴で、しかし後戻りできないものでした。一つのモルトでは味が完結しない。 重いモルトには軽いモルトが必要で、燻したものには花のようなものが必要で、両者を組み合わせて初めて1本が立体になる。1934年に余市を建て、1969年に3年かけて軟水を探して宮城峡を建てた根拠がこれです。

竹鶴ピュアモルトは、その哲学がラベル1枚に凝縮された銘柄です。この一本は、政孝が二拠点で35年かけて用意した和音を、瓶の中で鳴らすためだけに存在します。
43% という度数
日本のスタンダードなブレンデッドは40%が多く、43%はそれより3ポイントだけ高い、控えめな上振れです。

3ポイントは小さく見えますが、官能的にははっきり違います。40%だと香りが「距離のある匂い」として立ち上がるのに対し、43%は同じ香りが「グラスの縁のすぐ内側にある」ように近づく。フィニッシュも2〜3秒長い。フロム・ザ・バレルの51.4%のように「まず刺す」強度はなく、加水なしで食事の途中でも食後でも届く度数です。
グラスのなか — 煙、干し葡萄、そして遠くの洋梨
ノーズは、まず温めた蜂蜜と焼いたリンゴ。数秒置くと、裏から乾いた煙が立ち上がります。焚き火の火が消えたあと、燃え残りに近づいたときに鼻に届く、油分を含んだ煙です。同時に干し葡萄をオーブンで軽く温めた甘さ(余市のシェリー樽原酒の署名)が座り、いちばん遠くに宮城峡の白桃と洋梨が薄い一枚として敷いてあります。
口に含むと、最初に舌の中央に油の重さが乗ります。少し遅れて、その油の上を軽い果実が滑る。この滑り方は宮城峡の還流が生んだ軽さで、余市の油だけでは出せない動きです。フィニッシュはミディアム。潮を含んだ煙が薄く残り、干し葡萄の甘さが5秒ほど遅れて戻ります。

中点を探さないでください。 ブレンダーが2本のモルトから1本の和音を作るとは、均等に鳴らすことではなく、一方に基音を置いて、もう一方を上音として重ねることです。完全な中点は薄い妥協の味になり、左右を交互に飲むのと変わりません。
余市単独にはフィニッシュの軽さが「無く」、宮城峡単独には煙が「無い」。竹鶴は、両方の「無いもの」が埋まった一本です。
次に開けるとき、確かめてほしい3つ
基音と上音の階層。 舌の中央に乗る油の重さ(余市)を基音として聴き、その上を滑る軽い果実(宮城峡)を上音として拾う。この階層が聞こえれば、佐久間の2020年判断を舌で再現しています。
煙の質。 アイラ的な正露丸の煙ではなく、焚き火が消えたあとの油分を含んだ煙です。余市のヘビーピートモルトが石炭直火の釜で加熱されたときにしか出ない質で、ジャパニーズではここでしか出会えません。
時間差の展開。 ノーズから口、口からフィニッシュまで、余市の油 → 宮城峡のフルーツ → 余市の煙という往復が起きます。単独のシングルモルトでは起きない、二拠点ブレンドだけの時間軸です。一本調子に感じたら、グラスの中で数分待ってからもう一度嗅いでみてください。
飲み方は、まずストレート・常温。43%は加水なしで一番設計が見える度数です。数滴の加水で余市のシェリー樽の甘さが開きますが、最初の一杯は乾いた状態で。ロックは温度で香りの層が閉じるので向きません。食事なら香ばしい炭火焼きが合います。余市の油と Maillard 反応が、動物性脂肪の焼き目と物理的に握手します。
竹鶴政孝は「創業者の物語」の看板になりがちですが、この銘柄を飲むと、彼が日本のウイスキーに持ち込んだのは**「二つの蒸留所を持ってブレンドで組む」というインフラそのもの**だったと分かります。
このボトルを試す
Amazon.co.jp へのリンクです。20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
主な参考資料
- 竹鶴ピュアモルト ― ニッカウヰスキー公式:現行 43% NAS の製品情報
- 『竹鶴ピュアモルト』を刷新して新発売 ― アサヒビール 2020年1月16日リリース:余市モルト比率アップ、シェリー樽・ピート原酒軸への刷新意図、参考小売価格
- ニッカの新旧チーフブレンダーが語る ― BAR TIMES:佐久間正(2012–2020)と尾崎裕美(2021–)の交代経緯
- Dave Broom, The Way of Whisky: A Journey Around Japanese Whisky (Mitchell Beazley, 2017)
- Stefan Van Eycken, Whisky Rising (Cider Mill Press, 2017)
関連: 余市シングルモルト レビュー(基音側を単独で聴く)/ 宮城峡シングルモルト レビュー(上音側)/ 余市と宮城峡の違い(2本を並べる決定版)/ 竹鶴政孝のスコットランドノート(「二つを一つに」の出典)/ フロム・ザ・バレルと竹鶴威(同じ思想のブレンデッド版)