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ボウモア12年 レビュー — 25 ppm と Eddie MacAffer の 50 年

テイスティング
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東京・神楽坂の小さなバーで、カウンター越しにマスターが注ぐ音が聞こえる距離に座っていました。連れが「Islay を一杯飲みたい」と言うので、私は Laphroaig ではなく Bowmore 12 を頼みました。前回 Laphroaig を Islay 初心者に出したとき、相手が微妙な表情で「風邪薬の味がする」と言ったのを覚えていたからです。マスターが Glencairn に注ぎ、私が連れに手渡すと、彼女は鼻先で一秒止まってから言いました。「これ、Islay って聞いてたのと違いますね」。

正しい反応です。ボウモア12年 は、Islay という島が自分の評判を少し恥じているかのように振る舞う一本です。塩気、蜂蜜、午後の日差しに温められた石の上でしばらく干されたレモンの皮、そして期待より3秒遅れて、二つ入り江向こうから風で流れてきた焚き火のような細い煙。まぎれもなく Islay ですが、「Islay は苦手」と言う人がまだ Islay の全域を試していないと気づかせる一本でもあります。

この記事では、ボウモア12年という単一銘柄を、Eddie MacAffer が1966年から2016年まで50年間現場で守った工程と、1779年築 No.1 Vaults の海面下熟成という2つの物理条件を軸に読みます。Islay ppm ladder の位置 (Bunnahabhain 2 ppm から Ardbeg 55 ppm までの間で、Bowmore は25 ppm) は、記事末尾で対比軸として並べます。

ボウモア12年 — 40% ABV、東京で約4,800円、UK で £30-35

人物。 Eddie MacAffer は1966年、18歳で Bowmore の門をくぐりました。「一人前の男の給料を払う。ただし本気で働けるなら」という条件だったそうです。彼は排水溝を掘る仕事から始まり、warehouse、malt barn、wash / spirit still、distillery manager (2008年)、master distiller (2013年) と進み、2016年に退職しました。50年。

パンフレットは MacAffer を「フロアモルティングを救った男」と紹介したがりますが、それは少し違います。ボウモアは元々フロアモルティングを廃止する計画がなかった蒸留所 (プラントがフロア中心に設計されている) で、1990年代にはむしろマーケティング部が「自家フロアモルティング」をブランド価値として売り始めていました。MacAffer が実際にやっていたのは、もっと地味で、もっと重要な仕事です。基準を drift させないこと。フロアモルティングは湿った石床の上で24時間続く肉体労働で、堆積 (piece) の温度、床上の barley の厚さ、8時間ごとの turning cycle を担当者が少し手を抜くと、malt が drift し、その drift は18ヶ月後の new-make に、12年後の瓶の中に必ず現れます。MacAffer は1970年代に自分で floor 上に立って働いた経験があるので、若い maltman が手を抜こうとする瞬間を「かつて自分が同じ場所で同じ手抜きをしたことがある」という記憶から見抜けたわけです。

現 distillery manager は David Turner。同じ playbook を継承していると言われています。

工程。 グラスに何が入っているかを決める数字は3つです。

25 ppm。 ボウモアはモルト段階で約25 ppm のフェノールを目標に焚きます。自家フロアモルティング分 (仕込みの約40%) も、Port Ellen Maltings 委託分 (約60%) も、同じ25 ppmで揃えています。Islay のピート ladder では最軽 (Bunnahabhain の unpeated 2 ppm を除く)。Caol Ila が35 ppm、Lagavulin が35 ppm、Laphroaig が40-45 ppm、Ardbeg が50-55 ppm。**設計的に「Islay ではあるが痛くない中間地帯」**を狙って25 ppm に置かれています。

Islay 蒸留所別のモルト phenol ppm 横棒グラフ。Ardbeg が最上段の55 ppm ("purifier、シトラス煙")、Laphroaig 40-45 ppm ("自家 malt、医薬品")、Lagavulin 35-40 ppm ("小型スチルの遅い蒸留")、Caol Ila 35 ppm ("shell-and-tube、クリーンな煙")、Bowmore は破線枠で強調され25 ppm ("purifier なし、pear stills、No.1 Vaults")、キャプションは "the middle ground"。最下段は Bunnahabhain の2 ppm ("unpeated core")。フッター "PPM はモルトの値であって口の中の値ではない"。Cask Library palette: 黒背景、amber バー、sherry-brown アクセント。

1779年。 No.1 Vaults は現存するスコットランド最古の熟成庫で、蒸留所の敷地内で創業時から残っている唯一の建屋です。石床の一部は Loch Indaal の水面より下 (満潮時)。庫内は温度・湿度の変動が小さい cool damp な微気候で、angel’s share は約1-1.5%/年 — 業界平均 (約2%) の半分程度です。メインランド (本土) の dunnage で12年寝かせた first-fill Bourbon 樽が58%になるとすれば、同じ樽が No.1 Vaults にあれば62%あたりで留まる。海霜まじりの空気が cask 壁を通って塩気と低音の海藻ノートを木部に押し込みます。テイスティングノートの「潮っぽさ」の実体は、マーケコピーではなく地質的な結果です。

40% ABV、冷却濾過あり。 ここが Suntory が引き継いで維持している判断で、グラスの中で味わえる部分です。ボウモア12年は No.1 Vaults からカスクストレングスで出て、40%まで加水され、セルロースパッド越しに冷却濾過されて、温めた時に白濁する原因になる長鎖脂肪酸を落とします。Beam Suntory (現 Suntory Global Spirits) はこの12年をエントリー価格帯 (スーパーの棚を狙う値付け) に置いており、40% はその棚が払える価格に対応するスペックです。Laphroaig 10 の43% 非冷却濾過スペックと比べると、ロングチェイン ester がもう少し残る mouthfeel と、フェノール系のアロマがフィルターで落ちない分の残響が違います。ただし、後者は瓶あたり £8-10 高くなる。ボウモアは商業判断としてこちら側を選んでいて、これは間違った選択ではなく、あくまで選択であり、注いだドラムはその選択の結果として形が決まっている、という話です。

スチルの形について。 ボウモアは pot still 4基 (wash 2 基 + ペアシェイプの spirit still 2 基)、purifier なし、shell-and-tube condenser。lyne arm が上向きに角度を持ち、比較的高い reflux を作ります。Ardbeg の purifier が人為的にライトにするのとは違うアプローチです。spirit safe から出てくる new-make は Ardbeg / Caol Ila より油っぽく丸みがあり、40%まで加水しても mouthfeel が痩せないための下地になっています。

味わい、具体的に。

  • ノーズ。 濡れた石に落ちた塩粒、ワイングラスの縁を撫でたオレンジピール、瓶の底で結晶化した蜂蜜、そして遅れて到着する、1時間前に浜辺で燃え尽きた焚き火の煙。Laphroaig の医薬品的な煙とも、Ardbeg のタール系の煙とも違う、冷めた普通の焚き火の煙です。
  • パレット。 最初にバニラクリーム (ex-Bourbon 樽の骨格)、次に温かいが熱くない中盤、40%とは思えないやわらかい chew。ピートは中盤に乾いた土のトーン — ローストしたヘーゼルナッツの薄皮、黒茶を軽く擦った時の scrape — として現れ、グラス内で最大音量になることは一度もありません。
  • フィニッシュ。 短く、温かく、シトラスの戻りと吐く息にわずかな塩気の煙。何も罰しない。何も居座らない。もう一杯注ぐために設計されたフィニッシュです。

いつ飲むか。 夕食前、チューリップグラスで室温。または夕食後、デザート代わりにダークチョコレートの角と一緒に。「今夜はこの一本にコミットする」ドラムではありません。Islay を Lagavulin ほどの儀式なしに飲みたい平日の一杯です。東京ではヨドバシ級の大型量販店や専門酒屋で4,500-5,000円で安定入荷、UK ではセール時に £35 を割ります。ヘリテージ Islay の12年蒸留所ボトリングとしては注目に値する価格です。

Islay ppm ladder の両端に立つ2本

ボウモア12年は Islay の中間地帯ですが、その位置を理解するために両端の2本を並べておきます。

Ardbeg 10 (46% ABV、£40-45、約6,500円)。Mickey Heads が2007-2020年の13年、spirit still の lyne arm にある purifier pipe (前腕ほどの長さの管、重い蒸気を凝縮して pot に戻す装置) に触らない判断を守った結果です。モルト段階で55 ppm という Islay 最強のフェノール量を、purifier が重量で分別して phenol (軽) は通し、oil と sulfur (重) は戻す。Islay 最大のピート量を最軽のコートで着ている構造。46%、非冷却濾過。冷えた焚き火にレモン汁を絞ったような輪郭が出ます。

Bunnahabhain 12 (46.3% ABV、£45-50、約7,000円)。Ian MacMillan が2010年に non-chill filtered / natural colour / 46.3% への切り替えを通した瓶。モルトはコアで2 ppm 未満、実質 unpeated。Bourbon / Sherry mix でわずかに Sherry 寄り。ロースト・アーモンド、温めたシリアル、Sherry 由来のレーズン、下地に沿岸の塩気 — 煙は無いが、海はまだそこにある。Islay = ピートという思い込みを反証する存在として棚に立っています。

この2本と Bowmore 12 を並べると、Islay の実際の幅が見えます。ピート量が25 / 55 / 2 ppm、ABV が40 / 46 / 46.3%、価格がスーパーのセールから専門酒屋の pour まで。3人の manager が3つの別々のプラントを継承して、どれも他の2つに寄せなかった結果です。「Islay」を単一のフレーバーに畳んでしまう誤解を、Bowmore は低ピート側から、Ardbeg は purifier で煙とグリースを分別する側から、Bunnahabhain は unpeated 側から、それぞれ訂正しています

Bowmore 12 は Islay の誠実な入り口です。最も安全なのは Bunnahabhain の方 — でも「Islay malt がピーテッドでありつつ穏やかである」という事実を舌で確認できるのは Bowmore です。もし訓練輪を外したくなったら Ardbeg が同じ棚の隣に、ピートを完全に抜いたらどうなるかを知りたければ Bunnahabhain が反対側に並んでいる。どちらに移っても、その動きは Eddie MacAffer が floor 上で50年守った中間地帯への敬意になります。

次に注ぐ時に確かめる3つのこと

プラントが仕事をちゃんとしているかを、飲む側で確認できるポイントが3つあります。

第一に、煙が来る順番。最初ではありません。室温の清潔なグラスで、蜂蜜とシトラスが先に到達し、煙は一拍遅れて来る。もし煙が最初なら、注がれてから時間が経ちすぎているか、グラスにより強くピーテッドな残り香が付いていた可能性が高いです。

第二に、40%のテクスチャ。ボウモア12年は白亜質 (チョーキー) に読めるべきではありません。薄くわずかにパウダリーに感じるなら、瓶を開けてから時間が経ちすぎている合図です — 悪くはならないが無限に持つわけでもなく、2年もの棚ボトルはそれが出ます。

第三に、フィニッシュの塩の尾。これが No.1 Vaults のシグネチャです。cask でもピートでもなく、warehouse そのもの。もし捉えられたなら、他の Islay 蒸留所には無いもの — 海面から3m下の熟成床、湿度がスピリットと木を長時間かけて交渉させる環境 — をあなたは味わったことになります。その交渉を、Eddie MacAffer は50年間、メモを一枚も書かないまま、その周りで働き続けていた人でした。


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参考資料

よくある質問

ボウモア12年のフェノール ppm はいくつ?
モルト段階で25 ppm前後です。自家フロアモルティング分 (仕込みの約40%) も、Port Ellen Maltings 委託分 (約60%) も、同じ25 ppmを目標に焚かれています。Islay のピーテッド蒸留所では最も軽く、Caol Ila 35 ppm、Lagavulin 35 ppm、Laphroaig 40-45 ppm、Ardbeg 50-55 ppm と比べると位置が明確です。ppm はモルト段階の値で、12年熟成後は5-7 ppm 相当まで下がっています。
ボウモア12年は冷却濾過している?
はい。ボウモア12年は40% ABV で冷却濾過 (chill-filtration) を通したスペックです。1994年に完全買収した Suntory (現 Suntory Global Spirits) が維持している entry-tier 仕様で、15年 / 18年は43% にステップアップしますが、12年は40%を守っています。非冷却濾過の Laphroaig 10 (43%) や Ardbeg 10 (46%) と比較すると、mouthfeel の油感は控えめに感じられます。
No.1 Vaults とは何?
1779年築、Loch Indaal (インダール湾) の岸壁に埋め込まれたスコットランド現存最古の dunnage warehouse です。床の一部は海面より下にあり (満潮時)、庫内は温度・湿度の変動が小さい cool damp な微気候。angel's share (年間の蒸発量) は約1-1.5% で業界平均 (約2%) の半分程度。ボウモアの塩気やヨード的な残響は、この立地の物理条件が cask に染み込んだ結果です。
Eddie MacAffer とは誰?
1966年にボウモア入社、warehouseman → maltman → brewer → distiller → distillery manager (2008) → master distiller (2013) と50年間ボウモア一蒸留所を務め、2016年に退職した人物です。Islay で稼働している数少ない自家フロアモルティング (Bowmore / Laphroaig / Kilchoman) の品質基準を、Morrison / Suntory / Beam Suntory と所有者が3度変わる間、現場側から維持し続けました。